高年層時計愛好家に想う

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「時計愛好家の終着点はいったい何処」

私は一時計愛好家として、時計を趣味とし、所有している時計に関しては最大限愛着を持って接している。そんな私が唯一共通の趣味で交流を図る場として、イベント会場や時計を趣味とした若年層の集まりである。私自身が若年層であるため、必然的に交流を持つ相手も若年層が多数になるわけだ。もちろん、若年層であろうと時計に対する熱意は十分であり、この場を介して様々な知識を共有する場として重宝するのである。

しかし、この若年層の輪から一歩外の世界に出ると、「この界隈はやはり高年層に親しまれる趣味なのだなぁ」と痛感する。寧ろ、現代の時計価格の高騰を見るに、若年層にとって踏み入る隙はなく、比較的敷居の高いニッチな世界なのだろう。こういった環境下の中で、若年層の愛好家は限られた資金の中で最もらしい選択を模索し、手にした時計を愛おしく想う。

話が脱線する前に、ここから本題としよう。

では、高年層である時計愛好家はどのような時計を捉え楽しんでいるのだろう。若年層と最も相違している点はブランドの歴史的背景を視野に入れていることだろう。若年層は極端なほどに現行品を好む。これは、ヴィンテージウォッチに対する扱いにくさや、少なからず現行品を持つことにステータスを感じる事もあるだろう。(大概のブランドは現行品が最も資産性が高いため)しかし、根本的に潜む要因としては、我々若年層がブランドの歴史的背景までを知る余地がないという事だ。もちろん、現代では容易に情報を得る事もできるが、ブランド単体ではなく業界という大きな括りにした時、それらの歴史的因果関係までを把握することは困難だろう。しかし、当時の傾向を実際に肌で触れた高年層は違う。彼らはヴィンテージウォッチに対して、それら要因を織り込んで評価することができる。

これは、ヴィンテージウォッチ取扱店に来店した時のことだ。その店舗には複数のブランドを取り扱っていたが、主に三大とJLCあたり、ちょびっとIWC、オメガ、etc...といったところか。

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(左)通常のレザーベルト (右)店頭で見た金無垢ブレスタイプ

インターネットより出典

私はショーケースの中にあるパテックのゴールデンエリプスの金無垢ベルトを拝見した。ゴールデンエリプスといえば、パテックの言わずと知れた名作、ケースはオーバル形状だがこれは黄金比に基づいた美しい造形。特出すべき点は、そのケースにラグはなく、レザーベルトはケース裏でピンに取り付けられる。しかし、当店で拝見させていただいた品はゴールドの鎖状の金無垢ブレスレットタイプ。「これは珍しい」と思い、店主とこの時計に関してのトークを交わす。

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写真(上)はパテックフィリップ96(カラトラバ)

Ben wrightより出典

すると、その店主の腕にはパテックの96。その96は1954年製の物だといい、まさに我々が想う96ケースにバーインデックス、ドルフィン針と正真正銘のそれである。店主はこのモデルを30年前に購入、「当時無理してでも手に入れた甲斐がありました。」という。驚くべき点は、その96に取り付けられた金無垢の鎖状のブレスレットである。当時の96に純正の鎖状の金無垢ブレスがラインナップされていたかは定かではないが(知識が疎い...)、店主のそれは96純正のブレスではない。そして、このブレスレットを手に入れるために15年かかったという。純正ではないそのブレスと96ケースのチリ合わせはお世辞にも素晴らしいとは言い難いが、少なくともケースラインに沿った弓カンが取り付けられており違和感は皆無。この時計には流石に感銘を受けた。「96(クンロク)にこれ程までもマッチしたブレスがあるのかと...」こればかりは、個人の感性では愚か、これこそ当時の歴史的な背景までを理解していなければ成し得ないものだと感じた。

時計愛好家の終着点とはこういう事なのだろう。