新型ポルトギーゼ40mm
iwcwatchs instagram より出典
COVID-19に伴う緊急事態宣言による自粛期間を終え、徐々にではあるが日常の生活が戻りつつある。時計ブティックを含む小売店においては営業再開の兆しが見え、世界的パンデミック下で発表された2020新作時計群が次々と店頭に並び始める。想えば既にそんな時期である。晴れてブティック(直営店)の営業再会に合わせていくつかの新作時計を見てきた。そのうちの一つがIWCである。
(左)ポルトギーゼクロノグラフ(中央)ポルトギーゼオートマチックオートマティック7Days(右)ポルトギーゼハンドワインド8Days iwc.com より出典
2020新作時計の目玉でもあった新作ポルトギーゼ40mmを実際に拝見して色々と感じたので記事に残す。まず、今作はIWCの主力ラインであるポルトギーゼセグメントであり、3針スモールセコンド表示の最もシンプルなポルトギーゼである。これ以前のポルトギーゼと言えば縦目2カウンターのクロノグラフが売れ筋であり、これの他にスモールセコンドとパワーリザーブを何故か横目2カウンターで表示する7Daysオートマチックも展開としてあった。それと復刻に搭載されていたハンドワインド8Daysはシンプルな6時位置スモールセコンド表示であったが、これまた何故かデイト機構を追加したムーブも存在する。つまり、従来のポルトギーゼセグメントの搭載ムーブはクロノ・7Days・8Daysの3種類であった。
今作はこれに加わる4つ目のムーブであり、時分針と6時位置のスモールセコンドのみという最もシンプルなムーブメントである。そのため、プロダクトとしても最も洗練されたアピアランスを持ち、やっとポルトギーゼとしての本命が登場したように感じた。その造形はまさに初代ポルトギーゼを思わせるモノであり、一体今までの復刻コレクションはなんだったんだろうと思わせる程だ。新作40mmと初代を見比べれば、その類似箇所は随所で感じられるだろう。
ここからは実機に触れたインプレである。まずはケースであるが、造形は従来モデル同様に初代を彷彿とさせるシェイプを持つ。パテックの96ケースを少々マッシブにさせたイメージであり、ラウンドケースから一体化されたラグへと通じる美しく絞られたシェイプはどの角度から見ても美しいと感じるだろう。ドレスウォッチのような薄さを感じることはないため、繊細な美しさを堪能するまでには至らないが、そもそものコンセプトが違うため御託は控える。
iwc.com より出典
ダイヤルはアラビアとミニッツマーカーを全てアプライドで備え、面倒なところまで作り込んでおり非常に丁寧な印象。ダイヤル中央には時分針のホゾを覆い隠すようにダイヤル側に袴のような立体的なリングが取り付けられている点は非常にこだわりを感じるが、これは従来のモデル(7Days、8Day)から行っている事。私も以前まで気づかなかったが、こういった細かな配慮が全体的なディテールに説得感を与える。対して針はプレス打ち抜きのような平たい印象に感じる。特に時分針の袴は面取りこそされているが平面的でありリーフハンドももう少し立体的な造形であれば完璧である。しかし、そこまで求めるとそれこそ雲上クラス群になってしまう為、比較対象がナンセンスではあるか。
iwc.com より出典
ムーブは新型のCal.82200。パワーリザーブ60h、振動数28,800Vph、自動巻機構は両巻きペラトン式である。89000系の主輪列と52000系で養われたペラトン自動巻機構を複合したムーブらしい。特にペラトンは凡そすべての摩耗パーツをセラミックに置き換えることで理論上摩耗は一切ないというから素晴らしい。自動巻の名機に数えられるムーブメントの殆どは自動巻機構を如何に効率よく巻き上げ、十分な耐久性を保つかという定石があり、パテックの27-460やロレの1500系以降などが挙げられるが、これに準ずるとこのムーブも名作なのではと感じる。ペラトン機構が裏蓋から丸見えな為、その駆動状態も確認することができる。機械好きやペラトン好きには十分満足できる仕様だろう。巻き心地は、ジリジリといった小刻みな巻き戻り防止装置の手応えが感じられるが個人的にはETAっぽくて好みではない。ちなみに余談であるが、ポルトギーゼクロノも旧型ETA7750ベースから新型自社クロノ移行に伴いコハゼを改良したというが、いまいち違いはわからず相変わらずのジリジリ巻き上げ。IWCは総じてジリジリ巻き上げなのかな。話を戻すが、当ムーブに至っては何故か手巻き方向が逆。つまり巻き上げは下方向の回転であり、これはムーブの制約により致し方ない事だが、これが違和感にしか感じられない人やこの仕様を受け付けない人は少なからずいるだろう。私としても一番残念なポイントである。
個人的な趣味嗜好から想うことを書き連ねたが、この時計が凡そ80万と考えればとても納得できるプロダクトである。現代における自社ムーブ搭載機の凡そすべてのミドルクラスウォッチ郡が100万オーバーである中、良質なムーブ搭載機をこの価格で打ち出すメーカーは少ない。恐らく、対抗馬としてはJLCマスターコントロールあたりだろうが、U100万ウォッチ郡もなかなか面白い時計が増えてきたなという印象である。
ポルトギーゼ・オートマティック40
¥797,500
ステンレススティール
直径 40.4 mm
厚さ 12.3 mm
サファイアガラスのシースルー裏蓋
防水性3気圧
ムーブメント
82200キャリバー
IWC自社製キャリバー
自動巻き
60時間パワーリザーブ
振動数28800.0回/時(4.0 Hz)