《2020年新作》ローランフェリエ

画像はすべて laurentferrier.ch より出典

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昨今、新型肺炎による影響は莫大である。時計業界においては毎年3月出展予定であったバーゼルワールドを中止。その後、バーゼルワールド主催者側であるMCHグループの冷淡な対応が引き金となり、主要ブランドが撤退する事態になった。バーゼルワールドの存続が危ぶまれる中、旧SIHHはデジタルプラットフォームであるWatches&Wondersでの新作発表となった。当エントリであるローランフェリエも2020年新作時計はWatches&Wondersにて発表された。

さて、2020年新作のトピックも例年通りやはりラグスポ群であり、ランゲからWGオデュッセウスが発表される中、ローランフェリエからもまた新作ラグスポが発表された。ローランフェリエといえば、長年パテックのプロダクトディレクション部門に在籍し、様々なモデルを手掛けたことで知られいる。そんな同氏のプライベートブランドでもパテック時代を強く思わせるクラシシズムを体現させたプロダクションが従来であった。しかし、意外にもローランフェリエはアバンギャルドな意匠が好みであり、本作は同士の願望が具現化されたプロダクトのようにも思える。同社初となるステンレススティールのケースと一体型ブレスレットを備えたスポーティウォッチが本作である。

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全体的なプロポーションは同社のクラシカルラインであるガレ・スクエアに似ているが、本作ではベゼルがより強調されダイヤルデザインは今までにないディテールを持つ。特にベゼルは立体的な3次曲線を描く複雑な形状である。この絶妙なラインに歪みが生じると美しい光沢感が損なわれ、一気にプロポーションが崩れるがそんな不安感も感じさせない仕上げレベルである。針はスポーティウォッチらしい夜光付きの太針だが、完全にポリッシュされた袴は立体的に整形されており、どこかクラシシズムを感じさせるディテールを残す。6時位置にスモールセコンドを備えており、このインダイヤルを支障させぬようインデックスのサイズ感を調整している点も抜かりなさを感じる。セコンドハンドも他針同様に完璧なポリッシュであり、立て付け高さはダイヤルギリギリまで詰めている。結果的にミニッツハンドとアワーハンドもダイヤルから絶妙な立て付け高さが保たれ、高級時計らしい完璧な造形である。

ケース一体型のブレスはバックルにかけてテーパードされた3連ブレスであり、角部は仄かに面取りが施されている。ヘッドとブレスの重量バランスは保たれているだろうし、ブレス可動域も十分だろうから試着せずとも装着感は良好だと確信できる。だが、是非とも一度はこの装着性を味わってみたいものである。

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グランスポーツトゥールビヨンとモデル名から分かるよう、本機に搭載されるムーブメントはトゥールビヨンである。搭載されるキャリバーはLF 619.01であり、これはローランフェリエの初作であるトゥールビヨン・ダブルスパイラルと同様である。ブリッジは複数に分割されており、その意匠は現代的であるが各部レイアウトに統一感が感じられ個人的には好みである。ムーブメントの面取りは手仕上げ独特の曲線を持ち、画像からも確認できるほど美しく磨き上げられている。ホイールトレインのスポーク面取りや穴石やネジ回りの面取り、ネジ頭のポリッシュなど、このレンジであれば当たり前だろうが、どこを見ても完璧なレベルである。全体に仕上げられたブリッジのヘアラインは繊細故に画像では判断しかねるが、淡い光沢感がその仕上がりレベルを窺わせる。

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画像は本作ではなくベースキャリバーであるが、同様の脱進機である。前述したよう、本作はトゥールビヨンであるが、ダブルヘアスプリングであり、二つのヘアスプリングが対に取り付けられている。ひげ持ちが対称に配置されていることが画像でも確認できるだろう。ヘアスプリングの一方が外に広がる時に他方は内側に縮むダブルヘアスプリングは、より同心円状に近い振動をテンプに与えることで姿勢差誤差を補正する。これらをキャリッジに収めトゥールビヨン化することで姿勢差をさらに均一化させる。そして、キャリッジのカナを通し、日の裏側ではセコンドバンドが稼働する。敢えてダイヤルからキャリッジを伏せる試みがローランフェリエの粋である。

本作のようなスポーティウォッチは実用性を追求させる必要があり、その表れがキャリッジは魅せるものではなく常に実用的であるべきだという事を訴えかける、そんなパッケージングである。スポーティウォッチなためハンドワインドであることは意外だが、技術的な制約か...。個人的にはリザーブだけでも付加的に備えたいものだが、付加機構を備えるだけでも設計を一新させる必要性がでてくるものだ。ただ、そんな小言を逸するほど魅力的な時計である。