グランドセイコー SBGR053/SBGR253 徹底解析
今回は私が兼ねてから使用しているグランドセイコー メカニカルラインの《SBGR053》をご紹介したい。また、ブランド改定に伴って型番が《SBGR253》へと変更されて、文字盤からはSEIKOの文字が取り払われ、GRANDSEIKOのみが表記されるようになった。
この時計は私の中でもかなり印象深い時計だ。まさに、時計好きへの第一歩であった。学生の頃に限られた資金の中で最良の時計を探していた時、この時計に出会った。今想っても、まさに最良の選択であったと思う。
そんなグランドセイコーメカニカルだが、特質すべき点はやはり国産らしい質実剛健な仕上がりに尽きる。
グランドセイコーのケースの仕上がりは美しい。この仕上がりを実現するには数多くの工程を要する。
日本の美意識に通ずる美しいケース仕上げ
グランドセイコーのケースはザラツ研磨により平面的で歪みのない鏡面仕上げが作り上げられる。
グランドセイコーの美しいケースは素材の精製から始まる。ケースに使用されるステンレス材SUS316Lは切削工程に入る前に冷間鍛造が行われる。鍛造とは、最大250トンのプレスマシンによりステンレス材を圧縮する事で素材の組成が変化し、金属の目が詰まる。これによってケースが頑強になることや、鏡面も美しく仕上がるなどの効果がある。鍛造前にステンレスの残留応力を抜くため、1100℃ほどで熱処理を繰り返えされる。グランドセイコーはおおよそ10〜13回の鍛造が行われる。この回数は一般的なメーカーに比べおおよそ2倍であり、外装仕上げに定評があるブライトリングのクロノマットで15回ほどと同等の水準を誇る。
鍛造が行われたステンレス材は大まかなケースの形まで整形される。その後CNCというコンピュータ数値制御による切削マシンによって鍛造されたケース表面を0.1mm単位で削ぐ。
切削を終えたケースは研磨の工程に入る。グランドセイコーでは鏡面仕上げの下地作りにザラツ研磨という手法をとる。ザラツ研磨とは回転する金属板に研磨材が埋め込まれたフィルムを装着する。回転盤にケースを押し当てる姿はしばしGSホームページで目するだろう。回転盤は外周と内周で回転数は同じだが回転速度が変化する。この特性を扱いながら職人の手の感覚で研磨が行われる。ザラツ研磨により鏡面下地を作り上げられ、最終工程のバフ掛けが行われる。
ザラツ研磨を行なっている状況、ケースを回転盤に押さえつけて研磨を行う インターネットより引用
では、ザラツ研磨を行うことでケースにどのような造形を作り出すのか。GSホームページより、平面と二次曲線を主体にデザインされる、と記されている通り、ザラツ研磨は平面的な下地づくりに特化している。さらにザラツ研磨を施した面と面の接点は美しい稜線を作り出すことができる。ザラツ研磨にて下地づくりを行うことで、バフ掛けによる仕上げ研磨を最小限に抑えることができる。すると、二次曲線の鋭いエッジを保ちつつ平面で歪みのない鏡面を作り出すことができる。写真(下)、二次曲線を描いた歪みのない鏡面仕上げと美しいエッジは、ザラツ研磨による恩恵が上手く現れている。
ケースとリューズの隙間に爪掛かりがあるため、引き出し操作は良好。
グランドセイコーは時計の操作感にもこだわりがある。リューズは引き出しやすいよう、ケース側面のリューズ周辺が縁取りされていて爪掛かりがある。時分針の操作感はある程度手応えがあり、針飛びが起こると言うような不安感は皆無だ。
多面カットによる究極の視認性
インデックスと針をダイヤカットすることにより光源を乱反射させる。視認性は極めて高い。
グランドセイコーの文字盤は常に輝きを放つ。それは多面ダイヤカットが施されたインデックスや針の恩恵だろう。インデックスは視認性を高めるため大型のバーインデックス、12、6、9時位置はダブル配置されている。インデックスには縦筋のダイヤカットが無数に施されており、これによりあらゆる光源を反射する。
針も同様に多面カットが施されている。時分針はドルフィン形状であり、表面はヘアライン仕上げが施されているが端部はダイヤカットされ、鏡面に仕上げられている。まるで日本刀のような鋭いエッジが効いた針は立体的で美しい。また、全ての針は適切な長さにデザインされている。
文字盤に関しても抜かりない。艶のある黒文字盤はラッカー仕上げ。グランドセイコーの文字盤は耐久性を高めるため、ラッカーは何層にも塗り重ねられ、表面には保護用ラッカーが施される。これらは、一般的なメーカーの10倍近い塗膜厚であり、経年劣化による退色も抑えられる。黒文字盤の色合いも良好で、まるでオニキスのように奥深い印象を受ける。
実用的なムーブメント
非常に実用的なcal.9S65、自社規格であるGS規格により非常に高精度だ。
2008年に発表されたcal.9S65ムーブメントだが、現代に通じる非常に実用的なスペックである。精度は自社でGS規格というものを設けており、これはスイス公認のクロノメーター規格をさらに上回る規格であるため、必要十分。驚くべきことはMEMS技術により、非常に高い精度でパーツの製造が行われたことだ。これにより、時計の心臓部でもある脱心機の軽量化を図りより高効率に駆動させる。動力の摩擦損失の大半は脱心機であり、グランドセイコーは脱心機の改良に早くから着目していたメーカーであった。また、パワーリザーブも72時間の3DAYSであり、今では各社メーカーも72時間パワーリザーブが自社ムーブメントの水準になりつつあるが、先から導入していたグランドセイコーは着目すべき点が明確であったが故だろう。自動巻機構に関してはリバーサーを採用している。以前の9S55では、セイコー独自の巻上げ機構であるマジックレバーが採用されていたが、巻上げ効率の見直しによりリバーサーに改められた。巻き上げ効率も非常によく、リバーサーの耐久性面に関しても硬化処理が施されているため、不満感は全くない。
総評
グランドセイコーは《最高の普通》と銘打ち、実用性と耐久性を追求してきた。ムーブメントは現代的な使用に耐えあるスペックを備えており、ケースや文字盤に至っても耐久性は常に考えられて製造されている。結果として、堅牢な設計は美観的な要素も高め、非常に美しい仕上がりとなっている。デザインに関しては如何にも保守的だが、日本人らしい凛とした佇まいに共通する部分があるだろう。