グローネフェルド オランダ独立時計師

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三越ワールドウォッチフェアにて講演をしている様子。中央がグローネフェルド弟のティム氏。

2019年8月31日に三越ワールドウォッチフェアで行われたグローネフェルド氏の講演内容をエントリ。

グローネフェルドはオランダの独立時計師である。グローネフェルドは2人の兄弟であり、共に時計師である。弟はティム、兄がバート。グローネフェルド兄弟は時計師として三代目であり、祖父の代から時計師一家である。1912年にオランダのオルデンザールという都市に工房を作り、父が2代目、グローネフェルド兄弟は三代目として1980年に職を受け継いでいる。祖父はオルデンザールの中核部にある協会の時計台をメンテナンスしていた。現在でもこの業務はグローネフェルドの家系が受け継いでいる。

兄(Bart) 

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HPより出典

兄の時計技術者としての最初のキャリアはオランダのセイコー時計修理部門の技術者だった。その後、スキルアップを図るため、スイスのWOSTEP時計学校で研究を行う。WOSTEP修了後、イギリスの老舗ブランドであるアスプレイに就職するが、その後、複雑機構を学ぶため再び勉学に戻る。そして、スイスのオーデマピゲ傘下であるルノー・エ・パピで技術を磨く。

弟(Tim)

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HPより出典

弟は12歳にオランダの時計学校に進学する。その後、16歳に時計技術者になるための時計専門学校へ進学。そして、兄と同じくスイスのWOSTEP時計学校へ進学した。弟も同じくしてルノー・エ・パピへ就く。

RENAUD&PAPI(ルノー・エ・パピ)

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スイス ル・ロックルの複雑時計工房《ルノー・エ・パピ》

HODINKEEより出典

ルノー・エ・パピとはオーデマピゲ傘下に属する複雑機構の開発・製造を担う企業である。アトリエはスイス ルロックルである。グローネフェルド兄弟がルノー・エ・パピへ就いた当時は、ムーブメントの設計・開発のみを請け負う企業であったが、その後ムーブメント製造・組み立てまでを行うようになった先駆けの時代でもあった。そのため、当時はムーブメント開発における前歴もなく、資料がない中での開発・製品化であったため、高度な技術力を要し、この経験から時計師としての技術力を磨き上げた。ルノー・エ・パピ時代の経歴として、1998年にグローネフェルド兄弟で手掛けた初のコンプリケーションであるミニッツリピーターを開発。その後、兄はミニッツリピーターやスプリットセコンド、弟はトゥールビヨンを主に担当することになり、様々なハイエンドウォッチの開発に至る。また、兼任して技術者の育成も担当していたため、彼らの下に40人の若い技術者が就いていた。技術者の中には現在独立時計師として世に出たステファン・フォーセイ(グルーベル・フォルセイ)やピーター・スパークマリン、ランゲ&ゾーネのアントニー・デハスなどが在籍していたという。

GRONEFELD(グローネフェルド)

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オランダ オルデンザールに構えるショップ兼アトリエ

HPより出典

ルノー・エ・パピ社でキャリアを積んだグローネフェルド兄弟は、2008年に故郷であるオランダ オルデンザールで自身の名を冠したグローネフェルド社を設立する。現在の工房は当ブランド立ち上げの際に移転、写真(上)が現在の工房である。一階はショップ、二階が工房となり、ここでグローネフェルドの時計が製造されている。

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二階がアトリエ、ここで時計が製造されている

HPより出典

写真(上)工房内は非常にクリーンな環境で製造が行なわれている。

1941PRINCIPIA automatic

写真(下)こちらはグローネフェルドのレギュラーモデルである1941PRINCIPIA。

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1941PRINCIPIA(プリンキピア)はシンプルな三針自動巻ムーブメントが搭載される

モデル名のプリンキピアとは「自然哲学の数学的諸原理」、これはアイザック・ニュートンが著書のニュートン力学の解説書である。これにちなみ、グローネフェルドのラインナップの中でメカニズムの基本となるということに由来する。また、1941とはこの独特なケース形状の名称であるが、これは父親の誕生日である。ケース形状はラウンド型であるが、側面はケースからラグにかけてえぐられ、Hモーザーを想わせるが、少々違った造形であるか。

自動巻ムーブメントが搭載され、付加機構はなく最もシンプルなモデル。このモデルはケース・文字盤・ベルトをオーダーできる。

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こちらはレットゴールドのケースであるが、それぞれ異なった文字盤である

写真(上)ご覧の通り、文字盤のデザインとケースのマテリアル、ベルトのカラーが異なり、オーナーの要望により様々なバリエーションから選択することができる。

このモデルはグローネフェルドではエントリーモデルの位置付けだが、その仕上げは抜かりない。

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こちらが1941PRINCIPIAに搭載されるムーブメント。ローターは22kの大型な形状であり、セラミックボールベアリングにより注油が不要。特出すべき点はムーブメントの素材がステンレススティールであること。これはグローネフェルドのラインナップ全て共通して言える。通常のムーブメントは加工性の良い真鍮やせいぜい洋銀や18kなどであり、ステンレススティールを使用した現行のムーブではおそらくグローネフェルド以外は皆無だろう。そして、ウケの形状も独特である。これは、オランダ建物の屋根形状である《bell gables》からインスパイアされた。ウケがそれぞれ独立して取り付けられているため、その数は非常に多く複雑性を要する。グローネフェルド曰く、ウケがそれぞれ独立していることで、修理を行う際に修理箇所をスポットすることができると言うが、ムーブメントの生産性は全く考慮されておらず、これぞ独立時計師といった印象を受ける。独特な形状であるこのステンレスブリッジの製造は一日に一枚が限界だという。ウケの面取りやネジの仕上げなど、随所なまでに完璧な磨きが施されている。

1941 REMONTOIRE CONSTANT FORCE

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HPより出典

こちらはグローネフェルドの最も代表的なモデル、《ルモントワール コンスタントフォース》である。ケースは1941という名称の通り、先ほどのプリンキピアと同様だが、ムーブメントの付加機構としてルモントワールを搭載。このルモントワール機構は祖父がメンテナンスしていた教会の時計台に搭載されていた。これに着想を得たグローネフェルド兄弟は現代の腕時計にこの機構を搭載した。ルモントワールとは、脱進機かかるトルクを均一にするため、第2動力源を脱進機からバイパスされた位置に配置される。第2動力源とは、主にヒゲゼンマイでり、ここに主ゼンマイの動力が蓄えられ、一定の間隔でトルクが解放される。これにより、通常のムーブメントでは、主ゼンマイの巻き戻りによるトルク減少や、潤滑油の変動による歯車のトルク変動が僅かに生じるが、これらのトルク変動を一定に保つ。8秒ごとにルモントワール機構が作動(トルクが解放)、伴って文字盤9時位置の歯車が回転する。

総評

意外なことに、Web上ではグローネフェルドの経歴までが記されているサイトがないため、ワールドウォッチフェアでの講演内容に沿ってこれを試みた次第だ。(やはり、ルノー・エ・パピ在籍者は、その後の経歴も凄まじい...)

グローネフェルドの特出すべき点は先に記述した通り、やはりステンレスに対して異常なまでの執着ぶりだろう。グローネフェルドはルノー・エ・パピ在籍時代にル・ロックルの時計博物館で見たスティール製の懐中時計に感銘を受け、これを現代的なステンレススチールに置き換えたという。いずれにしても、この懐中時計との出会いがグローネフェルドの根源となっているわけだ。それにしても、このムーブメントの装飾はどのように施されるのだろう...

見れば見るほど、謎が深まる時計である。もちろん、私がこのような時計を購入することは今後も考えずらいが、一時計好きとしてグローネフェルドは見逃せない時計師のひとりであるだろう。