『時計以上の何か』by Audemars Piguet

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六本木駅から徒歩5分、東京ミッドタウン 芝生広場に併設されたAudemarsPiguetのエキシビジョン。《時計以上の何か》と題し、AudemarsPiguetの歴史や、それを取り巻く文化や地理的要素を五感で楽しむコンセプトで開催された今回のエキシビジョンをエントリ。

まず、館内へ入ると巨大なエキシビジョン、そして対極には円形型のフロアへの入り口がある。こちらのフロアが今回のメインフロアである。フロアは入り口の他に12のセクターに分けられており、コンセプトごとに異なる空間が設けられている。

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メインフロア中央部にはジュウ渓谷の岩をモチーフとするレプリカ、メインフロア側壁はエコウォールで覆われており、スイスの大自然を思わせるセッティングとなっている。音響はムーブメントのサウンドとジュウ渓谷の大自然の音がミキシングされ、ミステリアスな空間を作り出す。

フロア1・2は、主にメゾンの起源について。ジュウ渓谷と時計の関係性や創設者の家系図からメゾンの歴史を紐解く。フロア1にはサークル型のディスプレイにロイヤルオークとCODE11.59に使用される各所のパーツが展示される。また、AP本社を構えるジュウ渓谷の地理的要素を感じる事ができる。

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オーデマピゲの聖地であるジュウ渓谷の風景がディスプレイされる

見所はフロア2にある、創設者のひとりジュール・ルイ・オーデマが1875年に卒業制作で作り上げたグランドコンプリケーションのポケットウォッチである。搭載されるメカニズムはミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、デッドビートセコンドだ。

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創設者のひとりジュール・ルイ・オーデマの卒業制作の作品

フロア3・4は、APのアーカイブコレクションが展示されている。ここでは主にコンプリケーション(クロノグラフ、パペカレ、リピーター)がそれぞれのディスプレイに分けられトライアングル状に配置される。そして、それらを取り巻くようにセッティングされたモチーフの中央にはグランドコンプリケーションが鎮座する。

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クロノグラフ、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、そしてグランドコンプリケーションのディスプレイがそれぞれ配置される

フロア5では、時計技師の技を実際に体験するフロアだ。ここでは実際に真鍮にサテンとペルラージュ仕上げを施したり、ビスの取り扱いを体験できる。ROを思わせる8角形の真鍮は体験後に受け取る事ができる。サポーターにはAPに在籍している仕上げ師が指導につき、細かなポイントを解説してくれる。

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トレーナーの元、実際に仕上げ体験を行う事ができる

フロア6では、APのインスピレーションの根源とも言われる数々のアーカイブが展示される。年代毎に羅列されたアーカイブは歴史的な背景と共にAPのエポックメイキングなプロダクトを感じられる。見所は初代RO5402st、RORD#2コンセプト、ハイジュエリーサファイアオルブだろう。この他にもアールヌーボーやポケットウォッチなど、歴代のアーカイブが30点ほど展示されている。

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写真左)Royaloak5402st、写真右上)RoyaloakRD#2コンセプト、写真左下)サファイアオルブ

フロア7はラボだ。ここでは新作のCODE11.59のプロダクトをAP本社から専門家を招いて解説される。7年の開発期間を経てローンチされたCODE11.59の開発秘話や、インスピレーションの原型となったリストウォッチが紹介された。

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ラボではCal.4401のスケールモデル、CODE11.59の各所パーツや実機に触れる事ができる

フロア8は、ロイヤルオークにスポットしてディスプレイされる。初代RO5402stから初代オフショアRef.25721、そしてコンセプトモデルまで様々なアーカイブが網羅されている。フロア中央には5402stが展示され、ケースからブレスまで当時の意匠が感じられるようディスプレイされている。アーカイブにはそれぞれ年代、リファレンスナンバー、メカニズム、搭載キャリバーが記載されているため、時代背景からROの発展過程が見て取れる。

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傑作と称される初代5402stをフルディスプレイで鑑賞する事ができる

フロア9では、ロイヤルオークに取り付けられるダイヤルを彫金するタペストリー旋盤機の実演が行われている。実際に旋盤機を稼働させ、ダイヤルを模倣した真鍮材にタペストリー模様が施される状態を確認する事ができる。写真右下に二枚の金型があり、それぞれ金型を1枚のダイヤルサイズに縮小しトレースされる。一枚のダイヤルが完成されるのに要する時間は凡そ1.5時間だという。

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実際に真鍮プレートにタペストリーが削り出される

フロア10、ここでは新作のCODE11.59がフルラインナップでディスプレイされている。三針、クロノグラフ、パペカレ、トゥールビヨン、リピーター、カラー展開含めて全てのコレクションが一望できるのは、こういった場であるからこそだろう。フロア7で解説されたCODE11.59を実際にこちらで見ると、随所に施される細かなディティールとデザイナーの意図が読み取れるだろう。

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写真上)CODE11.59オートマチック、写真左下)CODE11.59クロノグラフ、写真右下)CODE11.59ミニッツリピーター

フロア11・12は、データアナトミーだ。オーディオビジュアルインスタレーション池田亮司の元、オーデマピゲで開発されたケース、ブレス、ムーブメントなどの一連データとCNCマシンデータなどを解析し、デジタル再構築を行い可視化したものだ。数学的構成を美しく駆使して作られたインスタレーションは、オーデマピゲという存在をグラフィックやコード、数字やそれらが設計図に一体化する様子を表現している。フロアー内は四方のスピーカーから脱進機の刻むサウンドが鳴り響き時計愛好家としては心地よい空間だ。裏腹に3連HDディスプレイにはモノクロでデジタライズされた映像が時計製作の緻密さを表す。

総評

六本木の一等地に併設された今回の会場。初日の来場者は時計愛好家が多数のように思えたが、愛好家ではない層の来場も多数確認できた。フロア1でディスプレイされたムーブメントや外装パーツが一際異彩を放ち、来場者の関心を掴むという観点では一役買ったと言える。フロア内に専属で配置されたスタッフは専門的な知識を持つ人間ではなく、曖昧な解説をしていたりと勿体ないと思う場面はあった。しかし、会場にはAP本部に在籍している思われる人間も周回していたため、踏み入った質問にも対応してくれるだろう。むしろこれにこそ価値を感じる。メインフロアのコンポジションも素晴らしい。CODE11.59を思わせるラウンド型のフロアに12のセクター、まさに時計の構図である。そして、側壁にあしらわれたエコウォールがスイスの大自然を連想させる。フロアサウンドには脱進機の音が常時鳴り響き、これを耳障りだと感じる方はいないだろう、とても心地が良い。ディスプレイ以外の機材に目をやると、よりオーデマピゲの世界観を具現化できるだろう。

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◼︎オーデマ ピゲ 展覧会「時計以上の何か」
会期:2019年10月19日(土)~11月4日(月)
場所:東京ミッドタウン 芝生広場
住所:東京都港区赤坂9-7-1
入場料: 無料
※予約優先。予約は特設サイトから可能。
開場時間:11:00~19:30