《オリジナルウォッチ製作》ヒコ・みずの研究生

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前項→ヒコ・みずのジュエリーカレッジ卒業製作ウォッチ - About Watch Diary

前項の番外編として、關氏の着用時計を拝見させていただいたので、少し書き連ねる。本作品は彼の第2作目である。ちなみに、前項の卒業製作懐中時計は3作品目。

本作品はリストウォッチであり、スモールセコンドを備えた3針時計である。全体的な造形はヴティライネンのvingt-8をインスパイアしたようだ。たしかに。ケースやラグの造形は類似しているように思えるが、細かな仕様はオリジナルである。ケースは全て新造しており、真鍮材に金メッキを施している。ケースはラウンド型であり一見シンプルだが、ラグの造形は特徴的である。ディアドロップ型のラグはミドルケースと別体であり、ラグ棒により接続されているため稼動する。そのため、腕馴染みはとても良い。

ダイヤルはおそらく真鍮材を旋盤で切削をしたものだろう。アワートラックはサークル上のヘアライン仕上げ。インデックスは全てアプライドであり、足により確実に固定されている。白に発色した箇所はエナメルペイント。アワートラックの無骨な質感とは対照的に、エナメルペイントの塗布面はトロッとしており質感が美しい。針は青焼きのスペードハンド、これは前項の懐中時計と類似している。やはり、袴を立体的に仕上げるエッセンスは製作者のポリシーなのだろう。私もこれにはとても共感できる。

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背面はグラスバックとなっている。愛好家であれば、このムーブメントがユニタスであることを認識できるだろうが、仕上げレベルは非常に高い。ムーブメントは全て金メッキを施している。メッキを施すため、ベースのメッキ下地は一度剥がしている。全面にかけてポリッシュをかけて下地を整え、その後にコート・ド・ジュネーブを再度仕上げてから金メッキ施している。これだけでも相当な手間である。そして、地板には有りとあらゆる箇所にペルラージュが施してある。もちろん、ブリッジで覆われている箇所も全てである。バランスコックには、やはり彫金が施してあり、これは前項の懐中時計と同じである。

特徴的な稜線を描くブリッジは既存の受けに対してフライス加工をしたものである。よって、新造ではないわけだが、各種ブリッジの形状は違和感なく感じられる。面取りも当然施しており、入角と出角を強調させたデザインは、本当に手作業で仕上げたのだろうと連想させる仕上がりである。もちろん、彼のポリッシングは全て手作業である。受けから覗かせる2番車にはアミダが面取りされており、アメリカ懐中などに見られるゴールドトレインを思わせる。角穴や丸穴、ネジ頭の仕上げなど、とにかく各所に至るまで仕上げが徹底されている。

このようなオリジナルウォッチは本当に手作業で仕上げられたという温もりを感じるし、製作工程の苦難が如実に伝わってくる。製作者の貴重な経験談を感受することで、プロダクトの解釈や製作工程を推考することができる。ここまで来るとオタクの域であるが、やはり時計とはそれほど高い次元で形成されている。それらが最もわかりやすく具現化されているのがオリジナルウォッチであると感じる。