LAINE Gelidus 2

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laine_watches instagram より出典

コロナ蔓延が長引き終息の見込みが立たないまま感染拡大が続いている昨今であるが、時計販売店を含め小売店は自粛解除宣言を境に営業を再開している。しかし、インバウンド需要で支えていた銀座などの首都圏では当然のことながら客足は少ない。対して、店舗では入店人数の規制や来客者の検温チェックなど、細かいところではあるが人件費ばかりが嵩む事で経営状況の深刻さが窺える。折角勢いづいてきた時計業界であるが新型コロナの影響が今後の発展に暗雲を立ち込める。そうならないことを願うばかりである。

今回はLAINEを拝見させてもらう為、恵比寿にある時計販売店のノーブルスタイリングに伺った。この販売店の面白いところは取扱ブランドのラインナップである。LAINEは勿論、アーミンシュトローム、チャペック、クリストフクラーレ、HAUTLENCE(オートランス)など、まさにマニアックの真髄ともいうべきラインナップである。ノーブルスタイリングは恵比寿ガーデンプレイス奥のウェスティンホテル1Fに店舗を構える。勿論ホテルに宿泊せずとも来店は可能であるが、フロントの雰囲気はなんとも言えない緊張感がある。

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marriott.co.jp より出典

さて、本題のLAINEであるが最近は時計専門誌『クロノス日本版』でも多く掲載されている為、時計愛好家であれば既にご存知の方も多いはずだが、実物はまだ未見であるという方は多いはず。私もやっと実物を拝見できた身である。LAINEの商品カタログベースは1型だが、ダイヤルや針の形状、ムーブメントの仕上げをお好みにカスタマイズできるセミオーダー式。勿論、店舗には在庫として販売品が並んでいるため、そちらでお気に召されれば即日納品となるが、特にオーダーによる別途料金が発生するわけでもない為、お好みでカスタマイズされるほうが宜しいだろう。さて、販売形態からも分かるよう、LAINEはメーカーに属さない独立時計師ブランドである。年間製造本数は凡そ20本であり、その製造の全てを創立者であるトースティ・ライネ氏1人で行っているというから驚きである。ライネ氏はランゲやヴティライネン氏の下で腕を磨いた1人であり、プロダクトの完成度は実物をご覧になれば見て取れることだろう。そんな手作り時計がU100万で手に入るのだから刺さる人には一見の価値ありだ。

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この時計の見所はなんといってもダイヤルである。上写真はLAINEの中でも人気ダイヤルのサンドブラスト・フュメである。アラビアインデックスや針の変更は可能であるが、やはりこのサンドブラストダイヤルがLAINEの中でも一種の定番である。アラビアインデックスやインダイヤルのサークルはアプライドの別体パーツのように思えるが、実はフライス盤で切削したダイヤルとの一体物。切削を終えるとダイヤル全体にサンドブラスト仕上げが施される。最終工程としてサンドブラストがかけられたインデックス表面を平滑に仕上げる。大まかにいうとこんなところだ。製造方法を聞くとなるほどと思えるが、アプライドではなくフライス盤にこだわるのは彼が3D CADによる設計を得意とするため。PVDで施されたダイヤルの濃淡も非常にナチュラルな仕上がりで美しい。ブレゲ数字のインデックスフォントも全くハズす気すら感じず、正に正統派である。どこかで見たようなダイヤルパターンはパテックのプラチナ96であり、やはりこのスタイルは美しい。ただし、眼を凝らすとやはりフライス切削の限界を感じる点は多々あるが(特にインデックスの鋭角部)、そんな欠点も手作り時計と考えれば許容範囲である。

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ムーブメントは汎用である。ダイヤル側のスモールセコンド位置を見れば詳しい方は勘ずくであろう、かのユニタス64である。裏面を見ればお馴染みの輪列配置と16.5リーニュの大型ムーブから一発で64系だとバレる。寧ろ隠そうとはしていないだろうが、メインブリッジやバランスブリッジを新造している為、素人目からは全くの別物に見えるほどチューンナップされている。全体的な造形は2/3ブリッジやメインバレルのサンバーストなどドイツ系の仕上げを意識したように感じる。そして、受けはダイヤルと同じく端部にガイド(縁)を設けたサンドブラスト仕上げ。恐らく、製造工程はダイヤルの手法と同じだろう。もちろん面取りは入念に施されている。そして、なによりバランスブリッジとガンギ受けが特徴的である。軸受けに沿ってシェイプされたブリッジは耐久性の限界ではないかと思わせるほどサイドラインが削がれている。ブリッジをシェイプさせたことにより捻出された曲線とエッジがこのムーブメントのアクセントであり、機械面取りでは不可能なエッジ部の面取りが手作業であることを主張する。なんとも残念なのは調速機構である。フリースプラングに拘る必要はないが、汎用同然のエタクロン緩急針と耐震装置が際立って目立つ。各部が完璧に仕上げられている故に、ここは改良して欲しいところ。

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腕に乗せると何処となく手作り感が感じられるのが、この時計の持つ魅力の一つ。ただし、何も荒が目立つといったネガティブ要素ではなく、ディテールは高級機同然の仕上がりを持っている。ただ、ハンドメイドウォッチにはメーカー品にはないオーラを纏っており、手に取ると不思議と感受できるのが面白いところである。ともあれ、ハンドメイドウォッチを低価格で市場に送り出した時計としてLAINEは先駆けであり、今後このような販売形態が普及することでもっと個性的なプロダクトが創出されると思うと今後が非常に楽しみである。