新作3針ストリームライナーについて

モーザーの新作ストリームライナーの発表からまだ数日であるが、銀座NX ONEでは特別受注会に合わせて展示を行うということで、当然のことながら、これに合わせて実機を見させていただいた。発表からまだ数日にもかかわらず実機展示に至ったのはNX ONEがHモーザー直営店である事に他ならず、新作発表の翌日から実機が見られるというのは時計業界としては非常に珍しいことである。

f:id:saw_ch:20200830163207j:image

moserwatchesid instagram より出典

さて、本作ストリームライナーであるが、3針はシリーズとして後発であり、実はクロノグラフが初作である。初作のストリームライナークロノはアジェノー社のクロノグラフムーブを搭載したことで定価500万↑と超絶価格であったが、ようやく3針が登場した事で現実的なプライスとなった。

本作のポイントは何と言ってもモーザー初となるケース一体型ブレスの造形である。昨今トレンドのラグスポカテゴリーに属するかといえば疑問だが、少なくともランゲのようなクラシックウォッチ一辺倒のメーカーでさえデイリーウォッチをラインナップさせる業界の流れを意識したことは間違いない。しかし、故ジェラルドジェンタのようなエッジの効いたデザインとは対照的に、流線型を基調としたジェンタデザインに対してのアンチテーゼ的なプロダクションはやはり同社らしいと感じる。

f:id:saw_ch:20200830184349j:image

moserwatchesid instagram より出典

まず、現物を見たファーストインプレは非常に作り込みが丁寧だということ。かなり抽象的な表現だが、これはパーツ一点一点のクオリティが厳密に管理されているが故。とくにストリームライナーのような曲線デザインはちょっとした歪みの違和感で一気にデザインが破綻するため、設計とクオリティの管理が重要になる。対照にROなどの平面デザインは仕上げが見栄えし易いと言える。とは言え、ストリームライナーは曲線部に至っても均一な仕上げを持つ。あらゆる方向からの光源に対して、光の反斜面が均一であれば良質な仕上げだと言えるが、まさにストリームライナーはこれを実感できる。

f:id:saw_ch:20200830195331j:image

moserwatches instagram より出典

そして、ブレスの構造が非常に面白い。ストリームライナーのアイコニックであるブレスレッドは一連ブレスのように思えるが、裏面を見ると分かるように実は三連ブレス。メインのM型パーツは裏面から見た外駒パーツにあたり、このM型パーツを中駒リンクで結合している構造。そのため、ブレスを曲げるとM型パーツのコマ間から微かに中駒が見て取れる。ブレスのデザイン上、可動域が広いとは言えないが、三連ブレスにすることで可動域が広くなり、装着性を上手く解消している。写真(右)のデザイン画が示すようブレスのM型パーツをサイドから見ると山型に角度が付けられている。ブレスを腕に巻いた際に美しい稜線を描かせるためであるが、こういった細かなディテール面の配慮も欠かさないのが流石である。

f:id:saw_ch:20200830200726j:image

moserwatches instagram より出典

ケースディテールはクッションケースそのもの。故にP社のラジオミール感が漂う。ケース径は40mm、ケース厚はアンダー10mmとかなり腕馴染みが良い。これもP社の◯◯ミールを想像すれば腕の収まり感もなんとなく想像できるだろう。ベゼルは中心から放射状に描かれたサンレイ仕上げ。これも仕上げ面が均一であり美しくしっとりとした輝きを持つ。

さて、最後にモーザーの売りであるフュメダイヤルである。当然のことながら本作もフュメ。恥ずかしながらフュメの定義が不識であったためセールスの方に確認すると【グラデーションダイヤル】の総称だとのこと。ダイヤルの下地仕上げはモデルによって様々な為、同じフュメダイヤルと言っても下地によって表情が変わるのが面白いところ。本作の下地はサンレイ仕上げ。製作工程としては通常のサンレイのように中央からブラッシングをかけて下地を整えた後、マトリックスグリーンのラッカー仕上げ。最終工程としてフュメとなるグラデーションペイントを施す。こんな感じだろうか。本作は特にグラデーションが強いように感じる。また、グラデーションで仕上げられた外周部は通常の塗料とは異なり、スプレーで吹き付けたようなザラツキ感がある。マトリックスグリーンに関して言えば思った以上に色味が暗く落ち着いた印象である為、グリーン文字盤に違和感を持たれている方も納得されることだろう。私としては最近見させてもらったAPのCODE11.59サンレイと似通った印象を受けた。とにかくこのダイヤルに関しては説明が難しいため、是非とも実機を手に取って感じて欲しい。

 PS・・・以前ブログにしたベンタブラックをこの機会に見させてもらった。あれドームガラスに反射してベンタの色味がイマイチ伝わらなかった。屈折を避けるために風防はフラットの方がいいのかな。何にせよ、ベンタの表情は時計のダイヤルだけでは表現しきれないように感じた。