H.moser ベンタブラックという物質について

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moserwatches instagram より出典

時計販売店にて会話が弾み、徐にH.モーザーの話になった。

「そういえばベンタブラックはすごいよ。」

なるほど。勿論、時計メディアや雑誌を物色している私はベンタブラックについて既知の素材であったが、どうやら想像を超えるモノだと感じた。時計愛好家であれば既にメディアでご覧になった事だろう。ベンタブラックは可視光の最大99.965%(全反射率0.2%)を吸収する物質であり、この世で最も黒い物質である。ベンタブラックはカーボンナノチューブで構成され、吸収した光はチューブ内で屈折を繰り返し、熱となり放出される。つまり、殆ど光を反射することなく吸収してしまう為、肉眼では黒く表現されるというわけ。しかし、よくよく調べてみるとカーボンナノチューブを組成とした物質はコーティングとして不向きな為、Hモーザーではこれを基に開発されたVENTABLACK VB×2という特殊塗料が使用されている。つまり、厳密には別物である。これはカーボンナノチューブを使用しない黒色塗料であり、全反射率は1.1%と劣るものの十分に優れた数値を保持している。いずれにしても、これがどれほどの色味を表現するかは実物を見てみなければわからない。

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tabi-labo.com より出典

話の中でセールスマンはベンタブラックの表現を、『まるでソコに穴が空いているように見える』とのこと。床一面にそれが塗られていると、床が底無しに見えてしまうほど黒く可視化され、まさにブラックホールのように感じるそうだ。また、ベンタブラックで塗装された物体は光の陰影を全く持たないため、空間的な奥行きの知覚が失われ肉眼では2次元的に見える。因みに、ベンタブラックはBMWの車両塗装にも実績があるものの、塗装の耐久性や公道での安全性が保てないため販売には至っていない。BMWもHモーザーと同様にVB×2での表面塗装を行っている。引用動画をご覧になればわかるよう、施工法も容易であるように感じる。カーボンナノチューブ構成は約430℃で化学蒸着させる必要があるのに対しVB×2はスプレー方式だ。これであれば様々な基材に対応できるだろう。

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ここまで記事にまとめたわけだが、実は私も実物はまだ確認できていない。全く未知の塗装が採用されている為、是非とも実機を確認したいと感じさせる時計である。

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moserwatches instagram より出典