ラグスポ市場の飽和感

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タイトルがすでに結論に至っているが、昨今のラグジュアリースポーツウォッチ市場に対しての飽和感についてエントリ。

皆さまも、そろそろ感じているのではないだろうか。昨今のラグスポ市場は非常に拡大している。筆頭はオーデマピゲのROとパテックフィリップのノーチラスだろう。では、ラグスポというカテゴリーを開拓したメゾンはどこだろう。素人ながら考察すると、これ程までに市場が拡大した起因はHUBLOTの存在が大きいだろう。そして、HUBLOTを購入した新規時計ユーザーが次にスポットする時計、それがROオフショアを起点としたROオートマティックだろう。では、ROユーザーが次にスポットする時計はなんだろう。おそらく、RO派生(オフショア、クロノ)か、精々ノーチラスやオーバーシーズと言ったところだろう。ROユーザーがラグスポ市場から退場する可能性も大いにある。何が言いたいかというと、各社から様々なラグスポウォッチが発表されるが、すでに市場は飽和状態だということだ。

この飽和市場の中で一定のシェアを獲得するには、スポーツウォッチに求められる実用的なスペックと明確なパッケージングがモノを言う世界だ。成功例の一つがモーリスラクロアの《アイコン》だろう。

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MauriceLacroix Instagram出典

パッケージングこそイマイチではあるが、価格とスペックを考慮すると全体としてのプロポーションは非常に高い。また、各所に至る仕上げレベルは頗る良好である。切削レベルの技術的な向上が、時計全体のディティールから顕著に感じられる。そして、この時計の価格(¥214,500)は同カテゴリーとは一線を画す明確な差別化が図られている。時代と技術の進歩とともに、「ついにここまで来たか」と言うのがこの時計に寄せる率直な感想だろう。

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audemars.club1より出典

パッケージングが優れた時計の代表格は、不朽の名作であるオーデマピゲのROだろう。ROが傑作と言わしめる根源は、ジェンタ氏が描いたプロダクトが秀逸であること。そして、オーデマピゲがこのプロダクトを工業製品として成り立たせていることだろう。これを可能にした要因には、SUS材の工作技術の向上や、当時では新素材であったサファイアクリスタル風防の採用、新たな薄型自動巻ムーブメントなどの時代背景が想像できる。これらの要素はジェンタ氏のデッサンを忠実に再現したケースやブレスのディティールや、それに至る各部パーツの細かな仕上げを確認することで容易に判断がつく。しかし、ROが世に出た1970年代初頭では、このパッケージングは明らかにエポックメイキングであり、当然コンセンサスからの支持を得られるほどのプロダクトにまでは至らなかった。時は果て1990年代、ようやくROのプロダクトはコンセンサスを獲得し、現在の地位が確立される。傑作と称されるROであるが、これに至るキモはまさにROとしてのパッケージングが誕生当初から現在に至るまで一貫していることだろう。

では、ここで趣旨を戻そう。現在のラグスポウォッチ群でこれらを満たすモデルがどれだけあるだろう。流行に身を任せただけのプロダクトなのだろうと疑問視するモデルもある。ブームが過ぎ去ることで、一定のモデルは市場に淘汰されるのだろうが、少なくとも私は現状の行き過ぎた状態には懐疑的になってしまう。