オデュッセウスに想うこと

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SJXより出典

『鉄は熱いうちに打て』ではないが、話題性が高いうちにインプレッション。なお、実機を確認しているわけではなく、web上に発信された情報から想うことを発散するため、全く需要のないエントリではあるが書き連ねる事にする。

まずは当モデルのパッケージングだが、ランゲ初のステンレススティール製デイリーウォッチ。実用性を高めた要因はケースとブレスレットのみならず、搭載するムーブメントを一新させるまでに至る。

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外装はラウンドケースであるが、リューズ上下には日送りプッシャーを備えており、それを覆うようにミドルケースが膨張しているため、結果として大振りなリューズガードのような造形を見せる。プッシャーはケースの窪みに存在するため、操作性や押し心地が気になるところである。当モデルのケースサイズは径40.5mm、厚み11.1mm、最も近しいサイズ感はブレゲマリーンであり、それぞれ40.0mm:11.5mmである。これを見るにケースは日本人体型の腕にも馴染みやすいだろう。しかし、ラグ長は長めでありブレスの稼働コマはラグ端の延長にあるため、小ぶりなケースの恩恵は受けにくいだろう。そのため、装着感の良し悪しは、ラグの取り付け角とブレスレット可動域が重要になってくる。ラグの形状は至ってランゲらしい形状である。しかし、ブレスレットの形状は特徴的で、弓管を除く一コマ目がラグ幅と同様の幅を持つため、いかにも一体型ブレスレットのような造形を見せるが、ケースへの接続は弓管である。ブレスレットは5連ブレスであり、ランゲ初のスポーツブレスレットとしてはかなりチャレンジャーな試みである。ブレスレットのしなやかさは勿論だが、コマ数が増えたためコマ単位の仕上げが曖昧になると一気にチープ感が出てしまうものである。コマは二次曲線の丸みを帯びており、人間工学に基づいて設計されているのだろう。実際に腕に装着した際にコマの曲線がスッと通ることが理想であるが、これに歪みが生じるとブレスの輝きは品に欠ける。バックルはエクステンションを備えたフォールディングバックルであり、バックル中央のレリーフをプッシュすることで最大7mmの延長が可能だ。個人的な見解であるが、ラグスポはダブルフォールディングバックル(観音開き)のスマートなタイプが好みなため、これにエクステンションを備えたヴァシュロンOSのバックルが如何に秀逸な設計であるかを思い知らされた。

ダイヤルは三層で仕上げが異なり、メインダイヤルとサブダイヤルの外周は同様にサークル上の溝が掘られ、それぞれダイヤル中央部にはプレス模様が施される。プレスで施されたサンドブラストのような粗め模様は如何にもランゲらしい仕上げだが、サークル模様がスポーティウォッチであることを印象付ける。針であるが、時分針、秒針共にこれまでのランゲファミリーと同様の形状であるが、スポーティウォッチらしく夜光塗料が塗布されている。針はそれぞれ適切な位置まで示すよう長さを定めており、分針に至っては見返しのミニッツトラックに届くほどである。インデックスはダイヤモンドカットが施されたバータイプであり中央の溝に夜光塗料が塗布されている。12、3、9時位置にダブル配置されたインデックスはそれぞれ別体のもので構成されており、細かなポリシーが感じられる。大型なデイデイト窓にはそれぞれ窓枠が取り付けられ、一際存在感を放つと共に視認性も確実に確保している。しかし、このデイト窓がやけに外周に追いやられているようにも感じるため、あと数mm中央に寄せることで間延びした感覚を与えないようにできたのではと想ってしまう。ダイヤル全体の造形やクォリティはその他ファミリーを見るに保証されているようなものだが、スモールセコンドではなく、思い切ってセンターセコンドにしてもいいだろうと感じた。これによりミニッツトラックの恩恵もより受けることができただろう。

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いよいよムーブメントである。キャリバーナンバーはcal.L155.1DATOMATICであり、キャリバーナンバーを読み解くにこのムーブメントの開発は2015年からであることがわかる。つまり、少なくともオデュッセウスのプロダクションはこれ以前であることも示唆できる。振動数は携帯精度を高めるため8振動となった。伴って、テンプの空気抵抗を低減するため、チラネジではなく4箇所のミーンタイムスクリューを埋め込んでいる。テンプ受けは両持ちで確実に固定され、受けに施される彫金がより際立つ。ベースはcal.L086.1であることが、このムーブメントの輪列を見ることでわかる。ゴールドシャトンは1箇所のみでガンギ車に位置する。しかし、やはりガンギ車の受けは別体の鏡面プレートで覆って欲しいところだ。ローターはプラチナ製であるが、ムーブメントを覆う洋銀にマッチする色合いはイエローゴールドだと感じる。

結論は実機を確認してから述べたいが、現状としてはあまり心は揺れ動かない。あくまで想像の範疇に収まるプロダクトであり、驚きというほどの関心は沸き起こらない。価格が310万ということもあるが、せめてシンプルな3針をエントリーモデルとして置いた上でのデイデイトラインとしてほしかったものである。いずれにしても、この類の時計であれば私はブレゲのマリーンを推します。あれは実用最強機ですよ...。