新しい常識〜CODE11.59〜

ジュネーブサロンやバーゼルワールドで新作発表された時計が店頭で見られる時期になってきた...6月や7月はそんな時期だ。

先日、銀座のAPブティックで新作を拝見させていただいた。

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新ラインとして発表されたCODE11.59だ。「Challenge(挑戦)」「Own(継承)」「Dare(追求心)」「Evolve(進化)」これの頭文字と、日付が変わる直前の11時59分という数字から命名したらしいが、時計愛好家にとってモデル名の由来にさほど影響はないだろう。

この時計を実際に手にとってまず感じた事は、複雑なケース構成からなる美しい仕上げ、それと同時に吸い込まれるほど深く艶のある文字盤だ。

 

複雑すぎるケース

今回の新作CODE1159では、複雑なケース構成が特徴だ。正面から見るとラグが最小限にまで抑えられ、非常にミニマルな印象を感じるが、ケースサイドは非常に複雑な造形を見せる。

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ケースはスリーピース構造だが、その複雑さは見て取れるだろう                

ケース構造はスリーピース構造になっており、ベゼルとバックケースがミドルケースを挟み込むの構成だ。ロイヤルオークを想わせる8角形のミドルケースはヘアライン仕上げだが、上端部と下端部に施されたポリッシュが非常に美しい。ポリッシュ面は鋭く角が立ち、ヘアラインの角までスッと垂直に落ちる、ロイヤルオークからこの仕上がりは非常に卓越していた。実際にケースが組まれると、8角形のポリッシュ部は存在感を現し、研磨レベルの高さが伺えるだろう。8角形のミドルケースに目が行きがちだが、最も素晴らしく感じたのはラグの造形だ。ラグはベゼルと一体になっており、スケルトナイズされバックケースに至る。ラグとバックケースは一体化されておらず、そのチリ合わせは完璧だ。溶接して一体化させることは容易な事な事だが工作精度を示すため、敢えてこのような形をとったのだろう。複雑な曲線を描くラグはヘアライン仕上げ、さらに角はポリッシュで面取りがなされている。スケルトナイズされたラグの内側に至るまでヘアラインが施されているのは驚きだ。熟練のポリッシャーが当モデルのポリッシングはロイヤルオークよりも数段難しいと口を揃えるほどなのだから、相当複雑を要するケースなのだろう。

 

深く艶のある文字盤

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文字盤はラッカー仕上げだが7層塗り重ねることで艶のある美しい文字盤          

CODE1159は文字盤にも非常に特徴的だ。この文字盤はまるでオニキスのように見えるほど超平面で深みのある色合いだ。文字盤はラッカー仕上げだが、おおよそ7層にかけて塗り重ねられているらしい。ラッカーを7層も塗り重ねるモデルは非常に少なく、これはかなりの手間になるからだ。7層のラッカーを重ねる上で、埃やチリが混入した状態で塗り重ねたら、全ての工程が水の泡になる。また、この繊細な文字盤に取り付けられるアプライドされたインデックスとロゴ。インデックスは18kゴールド、ロゴは24kゴールドからなる。特にこのアプライドロゴはこのモデルの筆頭すべきパーツだろう。これだけで開発期間は2年だという。このロゴは《Audemars》と《Piguet》の部分でパーツが分かれ、それぞれの文字間はミクロン単位で結合されている。これらは文字盤への取り付けに耐えうるギリギリのサイズだと言う。実物を手に取った際はこの造形を是非とも見てほしい。

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風防の内側はドーム型であるが表面は垂直にカーブしている。

風防の表面と裏面で異なったカーブを描いているため、斜から見た際の文字盤に屈折が生じる。これも一つのプロダクトである。

 

オーデマピゲの新機関ムーブメント

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APの新機関ムーブメント   こちらはクロノグラフ一体型自動巻ムーブメントのもの

オーデマピゲはこのCODE1159の発表に合わせて新しい機関ムーブメントとなるcal4302を開発した。以前はcal3120がAPの機関ムーブメントであったが、おそらく今後cal4302へと移行されるのだろう。以前のムーブメントに比べ主ゼンマイのトルクが2.5倍になり、テンプの慣性モーメントが上がる、結果的に歩度精度がかなり向上した。cal4302については今後記事にしたいので、今回は控えておこう。

 

総評

この時計はどのカテゴリーに属するのだろう。オーデマピゲは《コンテンポラリー・クラシック》という位置付けをしている。コンテンポラリーとは現代的な、といった意味合いだ。過去になったデザインコードを再解釈し、全く新しい前衛的なデザインを作り出した。

オーデマピゲはまたしても時計史に残る新しいカテゴリーを作り出してしまうのか、あの傑作のように...