薄さは芸術

薄型ムーブメントこそ至高

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機械式時計を見て、実際に腕に乗せると、尚この感情が高まる。

クォーツ腕時計が世に出て、機械式時計は大打撃を受けた。しかし、その中で機械式時計が見い出した価値が腕時計の薄型化だ。当時のクォーツ時計は分厚かったためだ。今となってはエレクトロニクスの進化でクォーツムーブメントは驚異的な薄さで、安価に、大量生産されるようになり、機械式時計の薄型化はもはや実用面においては皆無だが。

しかし、現在においても機械式時計の薄型化は各ブランドがムーブメントの開発から行う程だ。

今回は、そんな薄型時計の魅力を存分に伝えたい。

 

私が想う薄型時計を一言でいうと、【芸術】だ。時計の厚みを薄くするという制約の中で開発されたモノは、繊細で精密で精巧ゆえに芸術だと感じる。既存のムーブメントからパーツを薄くしただけでは決して成し得ることのできない、まさに薄型の極致だ。

そっと腕に乗せるとその装着感は素晴らしく心地よい。通常の時計では、時計の重心を低く抑えたり、ラグの角度調整に至るまで、入念に工夫がなされているが、もはやその類ではない。

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ムーブメントを覗き込むと、そこには薄型に至るまでの秀逸なムーブメントの設計から細部に至るまでの精巧な仕上げは息を呑むほど美しい。現在の仕上げは工芸的な面でしかないが、薄型ムーブメントにおいて、これらは実用性(耐久性)の域にまで昇華される。

薄さを極限まで極めたムーブメントは、設計に無駄がなく、とても繊細な一面も見せる。また、薄型故に大胆な設計を施すムーブメントも稀ではない。

薄型時計はムーブメントに留まらず、ケースから文字盤、針に至る細部にまでその意匠は見られる。文字盤にはインデックスが植字され、その上に針が取り付けられ、風防がそれらを覆う。風防から文字盤に至るまでのクリアランスは極限にまで削がれているが、その中で立体的な造形を作りだす哲学はとても美しい。

薄型とは技術の極限に挑み、それらが生む哲学を最大限に昇華させたアートなのだ。