ヴィンテージロレックスのすゝめ

f:id:saw_ch:20191105065644j:image

Matthieu より出典

今もなお、業界では確立した地域であるロレックスであるが、これに至るまでの経緯を歴史から紐解く今回の『ヴィンテージロレックスのすゝめ』は、そのムーブメントについてのエントリ。

ロレックスの三大発明ともいえる革命的な機構は、《1.オイスターケース、2.パーペチュアル、3.デイトジャスト》であろう。中でも、ロレックスのパーペチュアル(自動巻機構)は秀逸であり、業界から名声を博した起因でもあるだろう。いかにして現在の地位に上り詰めたか、この功績を歴史を辿ってお伝えしたい。

自動巻の前進は1777年のアブラハム=ルイ・ペルレが手掛けた懐中時計であり、これに全回転型の錘を搭載し片巻き上げ式のものであった。当時の自動巻機構は利便性のためではなく、ケースへのホコリの混入やショックを与えないためのものであった。しかし、1920年代に腕時計が普及することで、自動巻は利便性という側面で進化を遂げる。1940〜50年代にはハーフローター式(半回転式)の自動巻時計が普及する。この頃の自動巻は3針手巻きムーブメントをベースとし、これに自動巻のモジュールを上から被せるような形で普及していた。ベースムーブメントに対してモジュールを載せるだけで済んだため、安価で製造を可能にし、この手法を採用するメーカーが増えた。さらに、自動巻の普及を加速させた一因として軍用時計としての開発が時代背景にある。とりわけ、自動巻機構はリューズ操作を最小限に留めるため、ケースに高い防水性を備えることができた。また、この頃から時計のケースが大型化し、伴ってこれに搭載するムーブメントも大型化させることが可能になり自動巻ブームをさらに加速させた。この頃、ロレックスは1931年にcal.NAを開発。これはロレックスで採用していた手巻きcal.600系に全回転ローターの自動巻モジュールを搭載したムーブメントであった。cal.NAは片巻き上げ式ではあったが、ハーフローターが普及していた当時としては全回転ローターはエポックメイキングであり、まさにこれがパーペチュアルの祖ともいえるムーブメントであった。この頃からロレックスは自動巻機構に注力するのだが、これも必然であったかのようにも思える。要因としては1926年にロレックスが開発したオイスターケースである。当時、防塵時計であったスクリューバックの裏蓋から着想を得て、リューズもねじ込み式に改めることで防水性を飛躍的に向上させた。だが、しばしばリューズの締め忘れによる浸水事故が発生し、これの打開策として考案されたのがパーペチュアルという訳だ。そして、ロレックスは自動巻機構が常に主ゼンマイのテンションを一定に保ち、解放されるトルクから高い等時性を得られることを既に確信していた。常に実用性を追求したパッケージングはこの頃からすでに確立されていた。しかし、当時の全回転ローターの巻き上げ効率はお世辞にも高いとは言い難かった。ハーフローターに関してはショックを軽減するため、ローターとの接触面に取り付けられたバネが慣性モーメントを増幅させ、これが副産物的な役割を果たしたが、全回転ローターに関してはローターのウエイトでしか慣性モーメントを高めることができなかった。よって、巻き上げ効率確保のため当時の全回転ローターは過大なほどに肥大し、ローター芯が折れるなど耐久性確保とのジレンマを抱える。しかし、1950年代になると新素材が誕生する。通常のローターに使用される真鍮材よりも比重が高いタングステンやゴールドマテリアルといった素材をローター外周に取り付けることで高い慣性を持つと同時にローターの軽量化を図ることでこの問題を克服した。そして、1950年にロレックスは新キャリバーであるcal.1030を開発。これはロレックス初の両方向巻き上げ式のムーブメントであり、巻き上げ機構はリバーサー式であった。cal.NAと同様に手巻きムーブメントの上にモジュールを載せる構造は同様であったが、ベースムーブメント(cal.1000)の薄型化やローターの軽量化に伴いムーブメント全体の厚みが軽減され、バブルバックの愛称で呼ばれた裏蓋形状は姿を消す事となる。さて、リバーサー式にもジレンマはある。巻き上げ効率を向上させるためにはリバーシングホイールを小さく軽くする必要があるが、耐久性は削がれる。しかし、リバーシングホイールに耐久性を持たせるため、これに堅牢性を与えることで巻き上げ効率は悪化させてしまう。これを解決させたのは1957年に開発されたcal.1530(1500系)である。リバーシングホイールに耐久性を与えつつも、高い巻き上げ効率を誇るリバーサーが実現したのだ。これがブランドのアイコンである赤のリバーシングホイールであり、cal.1500系が初出であった。これはアルミニウムに硬化処理を施したものであり、硬くて軽いこのリバーシングホイールは慣性を小さく保ち、高い巻き上げ効率を実現した。そして、このcal.1500系ムーブメントが現行キャリバーであるcal.3100の祖とも言われ、ロレックス傑作ムーブメントと称された由縁である。このcal.1500系を搭載するモデルこそ、まさに4桁シリアルでありヴィンテージロレックスなのである。